第1266夜 【ふるおうねずみ】
【ふるおうねずみ】
福音館書店 こどものとも年中向き 通巻330号 2013年9月1日発行
えとぶん 井上洋介
農家で生まれ育った私にとって、ねずみは紛れもなく“害獣”。
両親が汗水流して収穫した穀物を食べるのですから。
ねずみにかじられて穴の空いた米の袋などを見ると、子どもながらも憎々しい気持ちが湧くのを覚えたものでした。
今年の正月に帰省した際、天井裏を駆け回り、ガリガリと音を立てるねずみに、両親が頭を悩ませていました。
もはや食べ物に悪さをされることより、その“音”に神経が参っていました。
今も昔も、両親にとっては“にっくきねずみ”なのです。
『二人にこの絵本を見せたら、どんな反応をするんだろ…』
そう思った時の自分の顔が、苦笑いとまではいかないまでも、ちょっといびつな笑顔になっていたと思います。
「やねうらに
ふるくて
おおきな
ねずみが
すんでいる
だあれも
だあれも
しらないけれど」
このねずみを、“ぼく”は「ふるおうねずみ」と呼んで、歌を歌ってもらったり、一緒に遊んでもらったりします。
そうして、ニコニコ顔で、「また あした」と約束しちゃう。
何度も繰り返される、
「やねうらに ふるおうねずみが すんでいる」
というフレーズに、両親がどこまで耐えられるか(見せたらの話ですが)、段々気の毒になってきました。
こんな絵本を作ってしまう井上洋介さんは、さぞかしねずみとの素敵な思い出をお持ちなのかと思いきや、折り込み付録の「作者のことば」を読んでびっくりしました。
昼間、部屋に出てきて障子の桟をかけ上がるねずみを、井上さんが座敷箒で払い落とし、その日の夜、復讐された描写をお届けしましょう。
「その日の夜、寝ている私の布団の上を走り回り、顔の上を何度も踏んでいく。
あ、昼間のねずみだ、ふくしゅうにきたのだなと思った。
ねずみは執拗に走り回ったあと最后は私の顔をグギッと咬んで、あとは朝まで静かになった。」
私が驚いたのは、この体験そのものより、このすぐ後の文章にです。
「あの晩のねずみはなんだか憎めない
窮鼠猫を咬むのたとえがあるように、ねずみの心が伝わってきたような、生きる力をぎゅっと持っているようだ。」
やっぱり井上洋介さんは、仙人のような人でした。
【プーコン】
福音館書店 こどものとも年少版 通巻442号 2014年1月1日発行
えとぶん 井上洋介
井上洋介氏の絵本は、絵本だけを味わうということが、私にはできないのでした。
折込付録の「作者のことば」込み、というのか、井上洋介氏の存在感込み、というのか、単体扱いできないのです。
うさぎやさんでうさぎ帽子を買って、うさぎのおねえさんにかわいいとほめられ、
くまやさんで靴を買って、くまのおばさんにかわいいとほめられ、
もぐらやさんで手袋を買って、こんこんと咳をしたら、きつねの子が着いてきます。
うしやさんで角笛を買って、プーっと吹くと、きつねの子がコーンと鳴きます。
二人は歩きながら、プー コン プー コン
ついにはプーコン
そういうことでしたか、プーコン。
「ぼく」があれこれ身に着けながら歩いていくと、町の様子も変わります。
道も、建物も、いろんな乗り物も、木も草も。
でも、ずっと変わらないのは、「ぼく」がにっこり笑っていること。
絶対的安心感を約束してくれるのです。
今回の折込付録の「作者のことば」は、全体がもはや「詩」のように思えました。
やはり井上洋介氏は、人間という存在を超越しています。
(2013年12月 書き加え)
福音館書店 こどものとも年中向き 通巻330号 2013年9月1日発行
えとぶん 井上洋介
農家で生まれ育った私にとって、ねずみは紛れもなく“害獣”。
両親が汗水流して収穫した穀物を食べるのですから。
ねずみにかじられて穴の空いた米の袋などを見ると、子どもながらも憎々しい気持ちが湧くのを覚えたものでした。
今年の正月に帰省した際、天井裏を駆け回り、ガリガリと音を立てるねずみに、両親が頭を悩ませていました。
もはや食べ物に悪さをされることより、その“音”に神経が参っていました。
今も昔も、両親にとっては“にっくきねずみ”なのです。
『二人にこの絵本を見せたら、どんな反応をするんだろ…』
そう思った時の自分の顔が、苦笑いとまではいかないまでも、ちょっといびつな笑顔になっていたと思います。
「やねうらに
ふるくて
おおきな
ねずみが
すんでいる
だあれも
だあれも
しらないけれど」
このねずみを、“ぼく”は「ふるおうねずみ」と呼んで、歌を歌ってもらったり、一緒に遊んでもらったりします。
そうして、ニコニコ顔で、「また あした」と約束しちゃう。
何度も繰り返される、
「やねうらに ふるおうねずみが すんでいる」
というフレーズに、両親がどこまで耐えられるか(見せたらの話ですが)、段々気の毒になってきました。
こんな絵本を作ってしまう井上洋介さんは、さぞかしねずみとの素敵な思い出をお持ちなのかと思いきや、折り込み付録の「作者のことば」を読んでびっくりしました。
昼間、部屋に出てきて障子の桟をかけ上がるねずみを、井上さんが座敷箒で払い落とし、その日の夜、復讐された描写をお届けしましょう。
「その日の夜、寝ている私の布団の上を走り回り、顔の上を何度も踏んでいく。
あ、昼間のねずみだ、ふくしゅうにきたのだなと思った。
ねずみは執拗に走り回ったあと最后は私の顔をグギッと咬んで、あとは朝まで静かになった。」
私が驚いたのは、この体験そのものより、このすぐ後の文章にです。
「あの晩のねずみはなんだか憎めない
窮鼠猫を咬むのたとえがあるように、ねずみの心が伝わってきたような、生きる力をぎゅっと持っているようだ。」
やっぱり井上洋介さんは、仙人のような人でした。
【プーコン】
福音館書店 こどものとも年少版 通巻442号 2014年1月1日発行
えとぶん 井上洋介
井上洋介氏の絵本は、絵本だけを味わうということが、私にはできないのでした。
折込付録の「作者のことば」込み、というのか、井上洋介氏の存在感込み、というのか、単体扱いできないのです。
うさぎやさんでうさぎ帽子を買って、うさぎのおねえさんにかわいいとほめられ、
くまやさんで靴を買って、くまのおばさんにかわいいとほめられ、
もぐらやさんで手袋を買って、こんこんと咳をしたら、きつねの子が着いてきます。
うしやさんで角笛を買って、プーっと吹くと、きつねの子がコーンと鳴きます。
二人は歩きながら、プー コン プー コン
ついにはプーコン
そういうことでしたか、プーコン。
「ぼく」があれこれ身に着けながら歩いていくと、町の様子も変わります。
道も、建物も、いろんな乗り物も、木も草も。
でも、ずっと変わらないのは、「ぼく」がにっこり笑っていること。
絶対的安心感を約束してくれるのです。
今回の折込付録の「作者のことば」は、全体がもはや「詩」のように思えました。
やはり井上洋介氏は、人間という存在を超越しています。
(2013年12月 書き加え)


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