第856夜 【森の大きな女の子】

【森の大きな女の子】
セーラー出版 1998年10月31日発行
レナーテ・ゼーリッヒ 絵
エヴェリン・ハスラー 文
服部いつみ 訳
画像

25年以上の教師生活で、自分より背の高い女子生徒には一人しか出会っていません。
その生徒は、出来るだけ自分を小さく見せたかったのでしょう、いつもちょっと猫背でした。

私ほど大きくはないにしても、背の高い女の子たちに共通して言えることは、控えめで心根が良いということです。
ただでさえ大きくて目立つので、できるだけ人目をひかないように遠慮をし、影でみんなを支えるようなポジションをとることに慣れています。

小さな女子はいたわられることに慣れていますが、大きい女の子はめったに人にいたわられたりかばってもらったりすることがないので、まれにそういうことがあると、心から感謝します。

青木雨彦氏が長女を称えた本を書いていますが、私は同じことが大きな女の子にも言えると思っています。

さて、この絵本の主人公も大きな女の子です。
彼女は、人々をびっくりさせないように、町から遠く離れた森の入り口に一人ぼっちで暮らしていました。

あぁ、つくづく“大きな女の子”らしいではありませんか。

悲しいことに、彼女の母親は娘の気持ちなどまったく理解していません。
それどころか、こんなことを言います。
「大男ならまだいいとして、大女なんてねえ。
まったく、そんなにでかくちゃ、怖がって誰も友だちになってくれないだろうし、ましておまえのことを好いてくれる若者なんていやしないよ。
だいたい、男は女に自分を見上げてほしいって思うもんだよ。」

実の母親とは思えないひどさです。

娘がまだ乳飲み子だった20年以上前の話です。
授乳しながら自然に、「いっぱい飲んで大きくなってね」と娘に話しかけた私に、近くにいた義母が、「あんたみたいな大女になったらどうするの」と言いました。
“大きい”とか、“背が高い”とは言われ慣れていましたが、“大女”と面と向かって言われたのは初めてでした。
今でもその時の不快感を忘れることができません。
義母からでもかなりのダメージを受けるのですから、これが実母からだったらいかばかりでしょう。

女の子は母親に言われたことを思い出しながら、家の二階の窓から外を眺めて暮らす日々でした。

そんなある日、大きな女の子の家のすぐ近くに、若い森番が小屋を建て始めます。
森番は窓越しに見える女の子が気になります。
「すてきな女の子だなあ」

町のカーニバルに女の子を誘おうと思い、森番は女の子の家を訪れます。
玄関をたたいても返事がないので、森番は中の様子を覗いてみます。
そして、大きなマットレスの上で眠る大きな女の子を見つけます。

ここがポイントです。
森番にとっては女の子の大きさはさして問題ではなかったのです。
眠っている女の子の顔が、彼にはいつも窓越しに見ている時にも増してとても美しく見えたのです。

すばらしい。

あくる朝森番は、カーニバルには仮装した人々がたくさんいるといって女の子を誘います。
それを聞いた女の子は、町のみんなと仲良くなる願ってもないチャンスだと思います。

思ったとおり、仮装した人々の中では、大きな女の子は誰にも怖がられも驚かれもしません。
むしろ子どもたちは大きな女の子を、憧れに満ちたまなざしで見上げます。

その時、一人の大きな男の子が、大きな女の子の前で立ち止まると、女の子の手をとり、ダンスを始めます。
大きな女の子の胸はいっぱいになります。
相手を見下ろすことなく、同じ目の高さで見つめ合えるのです。

こんな気持ちは、並みの大きさの女の子には味わえないでしょうねえ。

ところが、小さな女の子が大男のズボンを引っ張った拍子に、大男はばったり地面に崩れ落ちます。
それは、大男などではなく、普通の背丈の男で、仮面がはずれた顔は、あのお隣の森番でした。

大きな女の子のほっぺたを伝って、大粒の涙がポロポロこぼれ落ちます。

すると、一人の子どもがたずねます。
「ねえ、おねえさんは、本物の大女だよね?」
大きな女の子は、ほっぺたの涙を手で拭い去ると、思い切って人々に向き直ります。
そして、自分が仮装しているのではなく本物の大女で、みんなを驚かせないように森の入り口に一人で住んでいることを話します。

人々はしーんと静まり返りましたが、怖がって逃げ出す人は誰もいません。

幼い男の子が言います。
「じゃあ、本物なんだね? わーっ、すごいや!」

森番も勇気を出して、自分が彼女を大女だということを前から知っていたこと、そしてそんなことはどうでもいいと思っていること、彼女のことが好きだということを告白します。

ブラボーッて言いたくなりますねえ。

次の日、森の動物たちは、仲良く手をつないで森を散歩する二人の姿を見かけました。
めでたし、めでたし。

大きな女の子の物語が、「めでたし、めでたし」で終わって、本当に嬉しいです。

ちなみに、私より唯一大きかった女子生徒は、おととし素敵な男性と結婚し、今年の年賀状にはかわいい赤ちゃんの写真を載せて送ってくれました。
めでたし、めでたし。

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