第417夜 【風がふいたら】

【風がふいたら】
評論社 1980年12月20日発行
パット・ハッチンス さく
田村隆一 やく
画像

せめて絵本の中だけでも、そよそよ、いや、ゴーゴーと、さわやかなんて生ぬるいものではなく、冷たい風が吹いてくれたらと、実に自分勝手な話ですが、そう思わずにはいられないほどの酷暑です。

私の願いが叶ってというわけではなく、実際、絵本の中ではけっこうな風が吹きまくります。

ホワイトさんのかさをあっという間に“おちょこ”にし、プリシラちゃんの風船をあっさり取り上げ、新郎のシルク・ハットを吹き飛ばします。
こんなことくらいでは、まだまだ。

男の子の凧をクルクルまわして飛ばし、おばさんが干しているシャツを引ったくり、鼻をかんでいた婦人からハンカチを取り上げ、裁判長のかつらさえ吹き上げます。
みんなが必死で追いかけますが、風はそのいたずらの手を緩めません。

郵便屋さんの手紙まで宙に踊らせ、宮殿の旗を吹き飛ばし、双子の女の子のえりまき(“マフラー”という記述ではないところがイイ感じ)を空飛ぶ旅の仲間にし、新聞屋さんの新聞を吹き上げます。
この辺りで、やっと風もいたずらに飽きてきました。
すると風は、「獲物」を全部ひとまとめにして、空から下へ落としてやってから・・・・・

「うみに むかって
はしっていった。」

最後のページでは、ヨットの帆が風をはらんでふくらみ、海原を渡っていきます。
そうして、風に吹き上げられたものを追いかけてきた人々が、みんな手を振り、ヨットを、いえ、“風”を見送っているのです。
ステキなラストではありませんか。

原作のタイトルは、 "THE WIND BLEW" です。
直訳だと、「風が吹いた」ですが、「風が吹いたら」のほうが断然いいと思います。
続いていく・・・という感じがしますもの。

【せかい一わるいかいじゅう】
偕成社 1990年8月発行
パット=ハッチンス さく
乾 侑美子 やく
画像

なんてシャレたお話でしょう。
普通は子どもに、「いい子にしていなさい」とか、「いい子だねえ」と言いますよね。
“いい子”がいいんです。

ところが、この絵本のかいじゅうの国では、生まれたばかりの赤ちゃんを見て、お父さんがうれしそうに、
「おれの息子は、きっと世界一悪いかいじゅうになるぞ。」と言うのです。
つまり、「悪い」ことが「いい」んです。

ヘイゼルに弟のビリーが生まれてからというもの、お父さんもお母さんも、おじいちゃんもおばあちゃんも、みんなでビリーの悪さかげんを褒め称え、ヘイゼルのことを見向きもしません。
そのたびヘイゼルは、『私だって鉄の棒を曲げられるし、すごい声で唸れるし、カーテンにぶら下がるのも得意だもん』と思うのです。

とうとう、お父さんとお母さんは、ビリーを、“世界一悪い赤ちゃんかいじゅうコンクール”に出場させます。
そこでビリーはみごとに優勝し、みんなは、ビリーこそ世界一悪いかいじゅうになると大喜びです。

益々おもしろくないヘイゼルは、ビリーをよその人(かいじゅう)にあげてしまいます。
それを知ったお父さんとお母さんは、
「自分の弟をよその人にあげちゃうなんて、おまえは世界一悪いかいじゅうだ!」
と言います。
「だから、私、そう言ったでしょ。」
ヘイゼルはうれしそう。

でも、さすがはお姉ちゃん、ヘイゼルはちゃんとわかっていました。
「私は、世界一悪いかいじゅう。
それで、ビリーは、世界一悪い赤ちゃんかいじゅう!」

よその人にあげられたビリーはどうなったでしょう。
もちろん、ちゃんと家に帰ってきました。
というより、あんまり悪いんで、返されてきちゃいました。

二人は仲良く、カーテンにぶら下がって遊んでいます。

弟や妹が生まれた時の、上の子どもの精神状態を、こんなにも巧みにおもしろくも正確に表現するなんて、パット・ハッチンスさんはとてもウイットに富んだ女性なのだろうなと思います。
絵本の最後に載っている、作者紹介の横顔の写真、確かにステキなかたです。

"第417夜 【風がふいたら】" へのコメントを書く

お名前
ホームページアドレス
コメント