第166夜 【まんいん からっぽ】

【まんいん からっぽ】
福音館書店 年少版こどものとも 通巻230号 1996年5月1日発行
藤田千枝 ぶん
古川タク え
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古川タク氏の、細い、というか極細のサインペンで描いたような線が好きなんです。
軽快で、サラッとしていて、裏表がなくて、それでいて暖かい・・・。
そういう性質や性格に自分があこがれていることが、今わかりました。

“ぼく”はお母さんと赤い車に乗って出かけます。
ドライブしながら、いろいろ対照的なものとすれ違います。
例えば、ピザの配達車はちびちゃんで、タンクローリーはでかぶつ。
満員バスと回送バス。
背の低いスポーツカーと、のっぽの観光バス。
橋の下には電車、橋の上にはぼくたち。

坂をのぼる車と、坂をくだる車。
赤い消防車と、白い救急車。
赤信号で停まるぼくたちと、走っていく消防車。
反対車線は渋滞なのに、こっちの車線はぼくたち1台。 (これはあまりに快感すぎる!)

暗いトンネルをでたら、明るい空の下。
遊園地に着きました。

藤田千枝さんが折り込み付録に書いています。
《これは、幼い子どもたちに、反対言葉をわかりやすく見せようとして作りはじめた絵本です。
でも、作っていうるちに、くらべることの面白さを楽しむ本にだんだん変わっていきました。
考えてみると、「満員」の反対は「からっぽ」だともいえるし、「ひとり」ともいえます。
「赤」の反対は「白」なのでしょうか? 「青」なのでしょうか?
坂を「のぼる」の反対は、「くだる」じゃなくて、「平らに走る」ことかもしれません。
「平らに走る」の反対は、「のぼる」でも「くだる」でもなくて、「でこぼこに走る」ことともいえます。》
おもしろいなあ。
凝った肩を揉みほぐしてもらうように、固まりかけている脳みそをほぐしてもらうような感覚です。
唯一無二の反対語だと信じているものが、そうではないかもしれないと思うことから、脳の柔軟体操は始まります。
しわやシミはあきらめるとして、脳の若さはぜひとも保ちたい、そんな私にはビッグなヒントをくれた絵本です。

【ぼくのブッベはどこ?】
福音館書店 年少版こどものとも 通巻220号 1995年7月1日発行
藤田千枝 ぶん
イロン・ヴィークランド え
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『○○だったらこれくらい』と、脳があらかじめ想定している大きさよりも、一割り増しぐらいでしょうか、『大きい』と感じるものがいくつかあります。
例えば、開いてすぐの、庭に生えているタンポポ。 特に白い綿毛が『大きい』んです。
家に入ってすぐの、電話機、『大きい』んです。
テーブルの上のピッチャー、やっぱり『大きい』んです。

自分の頭の中には、この世のすべてのものに対する大きさの規格というものが内蔵されているのかと驚くほど、「大きさ」に気を取られます。
もしかしたら、これらのものは大きく描かれているのではなくて、実際に大きいのかもしれません。
確かに、カナダでサンドイッチを頼んだら、馬の餌ですか、というような大きさとダイナミックさ(パンから野菜が並じゃなくはみ出まくっていました)で提供されました。
反対に、欧米・カナダ・オーストラリアから来たALTたちによると、日本のものは何もかもが “Cute! ”、「ちっちゃくてかわいい!」ということになっていました。
B5サイズのノートを “Cute!” と言われた時には、心底びっくりしました。

エストニア生まれのヴィークランドさんは、もちろん日本の方ではありません。
私の規格は純国産、日本のモノの大きさには対応できても、他の国では『小さい』のかもしれません。

枕はこのくらいにして、絵本の話です。
ブッベは“ぼく”の犬です。
「まってよー ブッベー
どこに いくのー」
庭を横切り、家の中へと“ぼく”はブッベを追いかけていきます。

家の中に入っても、ブッベはいません。
でも、読者には見えているんです、電話台の扉の陰にブッベがいるのが。
「ここーっ!」って、子どもなら間違いなく指差します。
リビングのテーブルクロスをめくって探しますが、いません。
でも、いるんです。 椅子の下に。

“ぼく”は自分の部屋に行きます。
けっこう散らかっています、男の子の部屋らしく。
ゴミ籠をひっくり返して探していますが、ブッベはソファの陰からしっぽを見せているだけ、“ぼく”は気づきません。
読者の子どもたちは、いよいよ熱くなって、「ここだよ!」って言っているにちがいありません。

バスルームも探します。
よく見ると、私がお母さんなら、キーッと怒っちゃいそうないたずらを三つ、四つはしています。
ブッベは、開いている扉の隙間から、“ぼく”の様子をうかがっています。
お母さんたちの寝室、いいの~?くつでベッドに乗っちゃって!
ブッベは隠れるのが上手です。
さりげなくベッドの下から前足の先だけ出しています。
すっかり隠れることだってできるのに。

台所のお母さんに泣きつきました。
「ママ、ブッベがいないよー」
お母さんはアップルパイを作っているのでしょうか。
とってもやさしそうなお母さん。
お母さんに言われたとおり、庭のお家を見に行きます。
ブッベはすぐ脇の茂みの中にじっとしています。

「あーあ どこにも いない」
うなだれて座り込む“ぼく”を見て、ブッベが茂みから出てきます。
「ワンワンワン」
「わーい ブッベー! わーい わーい」

「ブッベ、こんどは なにして あそぼうか」
ということは、覚悟の上でかくれんぼをしていたっていうことなんですね。
ブッベはなんて賢い遊び相手なのでしょう。

庭の風景といい、壁紙の模様といい、とても魅力的な絵です。

【みみのはなし】
福音館書店 かがくのとも 通巻368号 1999年11月1日発行
設楽哲也 文
古川タク 絵
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ずいぶん前になりますが、NHKの番組に「驚異の小宇宙・人体」というのがありました。
シリーズでしたが、毎回身をのりだすように見て、ため息をついていました。
絵本にも、人間の体についてのものはいくつもありますが、子どものころにすでに人体の神秘やすばらしさについて知る機会があるというのは、とても幸せなことだと思います。
しかし、大人になってもう一度、人体のすぐれたメカニズムについて復習すると、それはそれでまた新たな感動があるのでした。

十年近く前に、右の耳がよく聞こえなくなり、耳鼻科に通いました。
聞こえにくいくらいのことは、しばらく我慢したのですが、体育祭での大縄跳び、教師チームも参加した時に、縄に引っ掛かって何度もこける自分に、かなりの異状を感じたのです。
すなわち、「聞こえ」の問題を越えて、平衡感覚がおかしいことを自覚したからです。

「過労とストレスが原因でしょう」との医師のコメントで、精神安定剤のようなものを処方されました。
まじめな患者でしたので、その薬を言われたとおりに飲んでおりますと、廊下をまっすぐに歩けなくなりました。
自分ではまっすぐに歩いているつもりなのですが、隣りを歩いているALTに吸い寄せられるようにぶつかっていったり、壁に接触したりするのです。
いわゆる副作用というヤツです。
蛇行して廊下を歩いている私を、茶髪の生徒たちが、
「先生、大丈夫かよ」 と心配してくれたものです。

自分の身体をだましだまし、なんとかその時を乗り切ったのですが、五年前にまた同じ症状になりました。
この時には、ちゃんと治したいという気持ちで、4軒の耳鼻科に通いました。
初めの3軒の医師は、十年前と同じように、「過労とストレス」が原因だと言いました。
確かに、それもあるとは思いましたが、『病名が知りたいのよ』という気持ちが、新たなストレスを生んでいました。

4軒目の耳鼻科で、フロントガラスにワイパーをかけたように、問題はクリアされました。
「耳管開放症です。」
聞いたことのない病名でしたが、きっぱりと言われて、胸の辺りにつかえていた鉛のようなものが、スーッと落ちていった感じがしました。
名前の通り、耳の管が開いた状態のまま閉じない症状だったのです。
「聞こえないというよりは、聞こえすぎているんでしょ?」 と言われ、自分の症状をよく思い起こしてみると、実はそうだということに気づきました。
自分の声がバカみたいにうるさく耳の奥で聞こえていたのです。
そのおかげで、他の音は、山に登ったときに耳が聞こえにくくなったように、くぐもって聞こえていたのでした。

知名度の低い病気らしく、手術もできるにはできるけれど、完治の保障はできないとのこと。
インターネットで調べてみると、この病気で苦しんでいる人たちの切実な訴えがたくさんあるのでした。
結局、漢方薬で気長に対処することにしたのですが、病名がわかったということが何よりの治療になったような気がしました。

「耳」と聞いたら、もうこんなに語ってしまうほど、他の器官よりも耳には思い入れがある私です。

古川タク氏の絵が、シンプルで軽快なので、難しい説明というイメージはいっさいありません。
しかも、とてもわかりやすい。
一切の音が、空気の振動と共に耳にやってきて、精密機械のような「鼓膜・槌(つち)・砧(きぬた)」(命名もすばらしい)を経て、蝸牛へと。
そうして、脳がその信号を瞬時に分析、解読して、私たちは「わかる」のです。
「わからない」ということも「わかる」のです。

耳ってすばらしい。

【しゃっくり ヒック】
福音館書店 こどものとも年少版 通巻314号 2003年5月1日発行
木坂 涼 ぶん
古川 タク え
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子どもがお腹にいる時に、明らかにお腹の中でしゃっくりをしているということがわりと頻繁にありました。
膨らんだお腹のある一箇所が、「ひっく!」と定期的に動くのです。
お腹の中にいる赤ちゃんのしゃっくりを止める方法は、世界各地にしゃっくりを止める様々な方法があるとはいっても、さすがにあみ出されていないと思います。
私も放っておくしかありませんでした。
そうすると、知らないうちにおさまっているのでした。
今思うと、お腹でしゃっくりをしていたなんて、子どもにとっても私にとっても貴重な体験でした。

しゃっくりの止まらないこぐまくんは、出会う人ごとにしゃっくりの止め方を聞きます。
ねずみくんは、「りょうてを びょろろーん かたあし れろろーん」と教えてくれますが、止まりません。
こぶたくんは、「みみを つかんで むぎゅー」と教えてくれますが、やっぱり止まりません。
ここでのこぶたくんとこぐまくんの顔のおかしいことったら!
切羽詰ったら、顔がどうだとか言ってられませんからね。

あひるさんには曲芸師のようなことをやらされますが、それでも止まりません。
ヒック・・・
かわいそうに。

すると、とてつもなく大きなしゃっくりの音、「ヒェック
それはカバさんのしゃっくりでした。
驚いたこぐまくん。
おかげで自分のしゃっくりは止まっていました。

ちぎり絵だと思うのですが、やはりスッキリしていて余計なものがありません。
私は古川タク氏の絵が好きです。

木坂 涼氏の絵本は第54, 166, 171, 173, 1231, 1301, 1341, 1349 夜でも紹介しています。
古川タク氏の絵本は第27夜、第161夜、第165夜でも紹介しています。

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