第109夜 【いしのスープ】

【いしのスープ】
アルク 1990年5月5日発行
トニー・ロス さく
いくしまさちこ やく
画像

私は酉年生まれなので、英語で "Chicken!" が 「腰抜け野郎」 だろうが ( 映画 "Back to the Future" シリーズで、主人公のマーティがそう呼ばれるたびにむきになって失敗していましたっけ)、三歩歩けば忘れる、と言われようが、ニワトリは嫌いになれません。
臆病者でも、忘れんぼうでもないこの絵本のニワトリは、ニワトリのヒーロー(ヒロイン?)です。

ある日、悪い悪いオオカミは、母さんめんどりが洗濯物を干しているところに通りかかります。
見ると、ずらっと並んだ洗濯物はなかなか上等なものばかり。
って、あんまりそうは見えないんですけれど、洗濯物を籠にも入れず地面にじかに置いてあるあたり、めんどりの肝の太さをすでにうかがわせます。

オオカミはいきなり、
「おまえさんを食べてやろう。 ここにあるいいものもいただきだ。」 と言います。
それに対して母さんめんどりはこうです。
「まあまあ、それはどうも。」
これ、全然 Chicken じゃありませんから。 もう、勇者です。
さらに、
「でも、その前にスープでもいかがかしら。」 ときます。

母さんめんどりは道端の石ころを拾って、石のスープをごちそうすると言います。
石のスープなんて聞いたことのないオオカミは、知らぬ間にスープ作りに関わっていきます。
石をゆでただけのお湯がおいしいわけがありません。
母さんめんどりは、塩コショウから始まって、にんじん、ジャガイモ、かぶ、きのこ、などなどを、一つ一つ加えていきます。
それらを準備して調理する間、オオカミに色々な家事を巧みに頼みます。
皿洗い、部屋の掃除、洗濯物の取り込み、薪割り、アンテナ修理、煙突掃除・・・
もはや彼を「便利屋(まほろ駅前オオカミ便利軒)」と呼んでも誰も文句は言わないでしょう。

そうしているうちにできたスープはそれはそれはおいしいものになりました。
お鍋いっぱいのスープを飲み干したオオカミは満腹で、もう母さんめんどりを食べられません。
母さんめんどりはそれを充分承知で言います。
「さあ今度は私をめしあがれ。」
「もう入らないよ! おなかがぱんぱんだ。」
「おやまあ! それじゃ、ほしいものを取って、さっさと帰ってちょうだい。」
悪い悪いオオカミはパッと飛び上がると、ものすごいうなり声をあげながら・・・

石をつかんで逃げていきました。

あ~愉快愉快。
ブラボーニワトリ!
悪い悪いオオカミのはずなのに、思いっきり働いて母さんめんどりの仕事をことごとくやっちゃった間抜けなオオカミも憎めません。

石がおいしいスープを作り出したと思い込んで、石をつかんで逃げたオオカミには、おかしさと一緒に、少しばかりのアイロニーを感じます。

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