第1660夜 【チューリップ畑をつまさきで】

【チューリップ畑をつまさきで】
偕成社 2017年10月発行
山本容子
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春の陽射しのような、あたたかな雰囲気のピンクの表紙を見ただけでは、
この絵本の中に、どれだけスケールの大きな冒険が描かれているのか、
想像できないと思います。

主人公はチューリップの球根です。
そもそも球根は地面の中にいる(ある)もので、
場面はそこから動きようがないはずです。

ところが、この絵本の舞台である森のチューリップ(球根)たちは歩けます。

チューリップの女王ラーレや、
チューリップの妖精シンシアにいたっては、飛べます。

主人公の球根はカオリとバナナ。
カオリは雪のように白いチューリップになりたいのです。
そしてバナナは光のように輝く黄色のチューリップにあこがれています。

ひょんなことからキューコンチョーという奇妙な鳥に運ばれ、
二人の冒険が始まります。

バナナは途中でキューコンチョーから落下し、
バナナの実の生る南の島に到着します。
そこで、バナナ(食べられる方の)が大好きなサルのセンと出会い、
一緒にダンスを楽しむ日々を過ごします。

方や、キューコンチョーにトルコの宮殿に連れてこられたカオリは、
いたるところにチューリップの絵がある美術館のような宮殿を見てまわります。

やがて二人は奇跡的に再会し、
それぞれの望みだった白と黄色のチューリップの花となります。

そして、ラーレとシンシアが宮殿の王様に救われた昔のお話を知ります。

「なんてすてきなおはなし! 
 森のチューリップがあるけるのは 
 わたしたちが砂漠を旅したチューリップのラーレとシンシアの
 こどもだったからなのね」

「王様がラーレをみてしあわせなきもちになったように
 たっぷりの愛をうけてげんきにそだったキューコンは
 みんなの心をやさしくなぐさめられるチューリップになるんだわ」

二人はキューコンチョーに乗り、ふるさとの森に帰ります。
森はすっかり明るい春になっていました。

おかえりなさいのパーティで、
森のみんながダンスを踊りながら歌ったのが、
『チューリップ畑をつまさきで』という歌です。

この歌は、90年以上も前のミュージカル映画の挿入歌です。
この歌に着地するまでに、
こんなにも独創的なお話を創り出してしまう山本容子さんの
想像力に敬服します。

専門的なことはわかりませんが、
銅版画という技法が、このお話にはぴったりでした。

チューリップが歩いたり飛んだりすることに、
違和感を感じないどころか、それが当然のことのように思えました。

場面全体の色づかいが、春そのもので、温かさを感じます。

そしてもう一つ、触れずにいられないのが「字」です。
不思議な力を持った字です。
スラスラと読むことを許してくれません。
だからと言ってギクシャクと読みにくいというのではありません。
知らぬ間に噛むように読んでいた、という字なのです。

はがきを書くのが好きな身としては、このような字が書けたらなあと思います。
きれいな字を書くことはすでにあきらめていますし、
元々、自分はこういう字が書きたかったんだなと改めて思いました。

字も作品の一部であることをつくづく感じます。

何といっても、春を代表する花、チューリップ。
「チューリップ」という響きを耳にしただけでも、
心のどこかに陽が射すようで、明るく温かい気持ちになります。
さらには、心躍る春を感じさせてくれる、そんなすてきな絵本です。

山本容子さんの絵本は、第1065夜でも紹介しています。















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