第1571夜 【ほら いしころが おっこちたよ ね、わすれようよ】

【ほら いしころが おっこちたよ ね、わすれようよ】
偕成社 1980年6月発行
田島征三
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おじいさんとおばあさんがいます。
おじいさんは目を覚ましたばかり、まだベッドの上です。

おばあさんはもう朝の仕事をしています。
おばあさんは庭で花や野菜を育てていて、たわわに生った杏子の実でジャムを作るのを楽しみにしています。
すでに干し終わった洗濯物は風に揺れています。

今日はとびきりの上天気、いつもと違う朝です。
普段は何をやっても失敗ばかりしているおじいさんも、こんな日は全部うまくゆくような気になってしまいます。

でも、それはそんな気になっただけのことでした。

にわとりの卵をとりに行ったおじいさん、案の定こけて卵を全部割ってしまいます。

せっかくの上天気、いい気分で、うんと張り切って働こうと思ったのに。
おじいさんは一生懸命考えます。
どうすればさっきの気持ちに戻れるか。

そこでおじいさんは足元の小石を一つ拾い上げ、手を離します。
小石はぽとんと地べたに落ちました。
「ね、わすれようよ。」
おじいさんが言いました。

おばあさんはしばらく考えた後、おじいさんの言いたいことが全部わかってしまったのです。
小石がぽとんと地面におちた時から、おじいさんの本当の今日が始まったのです。

その前のことは何にもなかったのですから、今朝はにわとりが一つも卵を産まなかったし、誰も卵を割ったりしなかったのです。

この時点で充分、おばあさんのただものではない寛容さに胸打たれます。
しかしこの後も、おじいさんの失敗は続きます。
逃げ出したにわとりたちを捕まえようとして、おばあさんが育てていた鉢植えの花も、サラダにしようとしていた野菜もめちゃくちゃにしてしまいます。

その都度、石ころやら長靴やらを地面に落として、
「ね、わすれようよ。」
と、なかったことにします。

私だったら、このあたりでもう我慢の限界でしょうが、おばあさんは違います。

杏子の実をことごとく木から落とされダメにされても、
「いいのよ、いいのよ。 ジャムを作るのに、一日中お鍋をかき回さなくてすむもの。」

できすぎですよ、おばあさん。

さすがに洗濯物もぐしゃぐしゃにして、
「おばあさん、みてごらん!
ほら バケツが おっこちるよ。
ね、わすれようよ。」
とおじいさんが言った時には、おばあさんはもう何にも言ってくれません。

そりゃ当然です。
よくぞここまで耐えましたよ。

おじいさんに悪気は全くありません。
やることなすこと失敗ばかりの自分に、自分が一番うんざりなのです。

最後はおばあさんの方が言います。
「おじいさん、みてごらん!
ほうきがあるでしょう。
ほら おっこちるよ。
みんな わすれましょうね。」

おばあさん、あなたはもう神様です

でも、ここまで極端ではないにせよ、自分の両親もこんな感じかなと思うのです。
おじいさん(男の人)がちょっとしたことをやらかしても、おばあさん(女のひと)は、口ではあれこれ言いながらも、
『しょうがないなあ』と、自分で石ころを落っことして、なかったことにしてやっている…
そういうことって、世の中には結構多いのではないかしら…と完全に女性目線で言わせていただきます。

田島征三さんの絵本は、第296夜、第297夜、第307夜でも紹介しています。

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