第1067夜 【ここが家だ】

【ここが家だ】
集英社 2006年9月30日
絵 ベン・シャーン
構成・文 アーサー・ビナード
画像

読む前の自分と、読んだ後の自分が違う、そう感じさせる本(絵本)というものがあります。
この本がそうです。

この存在を、誰かに伝えなければならない、そう思わせる本(絵本)というものもあります。
この本がそうです。

1954年1月22日、家族に見送られ、第五福竜丸は焼津の港から海にでました。

船に乗れば、そこはみんなの家。

ミッドウェーを通り過ぎ、2月7日にマグロの漁を始めるも、マグロは見つからず、さらに南のマーシャル諸島を目指します。
2月27日、第五福竜丸は、マーシャル諸島の海で遂にマグロの群れにであい、寝るまもなく釣り上げます。

そして3月1日の夜明け前…

いきなり西の空が真っ赤に燃えます。
「太陽がのぼるぞぉー」
一人が叫びます。

けれど、本物の太陽は東の空に昇るもの。
にせものの太陽みたいな化け物が、うようよもくもくともがいているよう。

爆発音の後、空から白いものが降ってきます。
顔に当たると痛いその灰は、みんなの上に何時間も降り注ぎました。

それは、アメリカが行った水爆実験でした。
広島の原爆の一千倍の大きさの爆弾。

マーシャル諸島に家を建て住んでいた人々はそこには居られなくなりました。

マグロにとっての家である海も汚されました。

第五福竜丸は、まっすぐ焼津に帰ることにしました。
3千キロの距離を、2週間かけて。

最初の日から23人は気持ちが悪くなり、ご飯が食べられなくなります。
2日目から頭も痛くなり、めまいがしてゲリもします。
3日目には顔が黒くなり、
5日目には原とか首とかにデキモノが。

10日目になると髪の毛がぞろぞろと抜け出します。

「空からふった あの灰には
生きものの からだを
しずかに こわしていく
放射能が たっぷりと
はいっていた。」

なぜ、無線で助けを求めなかったのでしょう。
そうしたら、何をされるかわからなかったから。

見てはいけないものを見てしまった23人は、3月14日朝早く、焼津の港に着くと、病院へ行きました。

医者が告げた名は、「放射能病」
風邪をひくのとは違う、人が作った爆弾が原因の病気。

遠くまでとばされる放射能は、みんなの体にもぐりこみ、じりじりとこわしていきます。
それは、人間だけではなく、マグロの体にも、カツオの体にも、サメの体にももぐりこみます。

空高くとんだ放射能は雲を汚して、雨と一緒に畑のキャベツやニンジンに降ります。

「なにを 食べたら いいのか。」

8月、23人の中で一番先輩の久保山さんの様態が悪くなります。

「医者は かれを たすけようとし
久保山さんは 生きようとした。

そして ひとびとは かんがえはじめた
いっぺんに なん百万人も ころせる 爆弾を
いったい どこで つかおうと いうのか。」

9月23日、久保山さんの心臓はとまりました。
「原水爆の被害者は、私を最後にしてほしい」、そう言って亡くなりました。

『『久保山さんのことを わすれない』と
ひとびとは いった。

けれど わすれるのを じっと
まっている ひとたちもいる。」

「どうして わすれられようか。
畑は おぼえている。

波も
うちよせて
おぼえている。」

このあと、アーサー・ビナード氏は、

「ひとびとも
わすれやしない。」

と続け、この本をおわりにしています。

私たちは、畑や波のように、忘れずにいられるでしょうか。
忘れてはならないことは充分承知していても、記憶が薄らいでいくことは否めません。

だからこその、この絵本を自分自身もずっと抱え、できるだけ多くの人に知らせたいと思うのかもしれません。

さらに、ビナード氏のことばを信じたいのは、この部分です。

   人々はわかってきました。
   ビキニの海も、日本の海も、アメリカの海も、全部つながっていることを。
   原水爆をどこで爆発させても、みんなが巻き込まれるということを。

魚も鳥も、キャベツもニンジンも、そして人間も、
地球という家に、ともに住んでいる…
ここが家だ
そう言い続けていかなければ。

ベン・シャーンの絵は、静かに染み入る不思議な力を持っています。
“静”の印象でありながら、見つめていると、“動”以上の衝撃を与えられたように感じます。


この絵本で道徳の授業をやってみたいという元同僚がいます。
この絵本を紹介してくれたのは彼女です。
「やるからには、“機”というものと、“覚悟”が必要」

私は待っています。

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