第1035夜 【まほうつかいのワニ】

【まほうつかいのワニ】
文研出版 1983年7月20日発行
大石 真 作
佐々木マキ 絵
画像

昨日紹介した【うみべのまち】を読んだ後で、この本の佐々木マキ氏の絵を見ると、軽くカルチャーショックを受けます。
佐々木マキ氏の絵本の風景は、国籍不明というのか、“日本じゃないよね”というものが多いので、こんなふうに、ごく普通の日本の風景(主に川べり)を描いているのを見ると、恋人(?)の、今まで知らなかった一面を見たように新鮮で、胸にグッと来るものがあります。

主人公のゴロウの顔は、【ぼくがとぶ】の“ぼく”に酷似していて嬉しくなります。

最近釣りが好きになったゴロウは、日曜日になると、亡くなったおじいさんの釣竿を持って川へ釣りに出かけるようになりました。

ある秋の日曜日、ちっとも釣れないのにその場を離れがたく感じていると、突然目の前の浮きがググッと沈みます。
今までそんなに重い当たりにあったことがありません。
川に引きずり込まれないように、釣り糸を張り詰めたまま、五分、十分がたちました。

突然、川の中から声が聞こえます。
「だめだ、にげられない。
こうさん する ことに しよう。」

声の主はワニの子どもでした。
冒険心旺盛なワニの子は、南の海から一人で泳いできたのだといいます。
しかし、帰ろうにも、途中で冬になってしまってはまずいので、春までゴロウの家に置いてくれと頼みます。

困ったゴロウに、ワニの子が言います。
「ぼくは これから ぼうに ばける。
その ぼうを きみの 家の えんの下に おいといてくれれば いいんだ。
それから、ドッグ・フードを まい日 三つぶ、ぼうの まえに おいといてくれたまえ。」

ゴロウは初めのうち、言われたとおりドッグ・フードを、縁の下の黒い棒の前に置いておきました。
ドッグ・フードは毎日なくなっています。
そうしているうちに、季節は秋が過ぎて冬になりました。

日曜日、ゴロウは川へ釣りに出かけます。
ワニを釣って以来、さっぱり魚がかからなくなっていました。
その日ゴロウは、おじいさんの釣竿をうっかり川に流してしまい、それを取ろうと川に入って風邪をひいてしまいます。
高熱で寝込んで六日目、熱が引くと、黒い棒にドッグ・フードをやるのを、すっかり忘れていたことに気付きます。

ここでゴロウは、初めて疑います。
『ワニの子が黒い棒に化けるなんて、おかしな話じゃないか。』

それからというもの、縁の下の黒い棒には、ドッグ・フードをやらないまま放っておきました。
そのうち、冬が過ぎて春がやってくると、ゴロウはワニの子の言ったことを思い出します。
「春になれば南の海に帰れる・・・」

ワニの子が急に心配になったゴロウは、棒の前に、再びドッグ・フードを置くようになります。

日曜日、ゴロウはワニを釣った場所に棒を持っていくと、静かに川の中に入れてみました。
黒い棒はゆっくり川のそこに沈んでいき、それっきり何の気配もしません。

ゴロウががっかりしていると、ぷくっと大きな泡が浮いて、ワニの子が顔を出します。
「ゴロウくん、ながい こと、せわを してくれて ありがとう。
おかげで 南の 海に かえれるよ。
じゃ、さよなら。」

ワニの子はそう言うと、頭を川下に向け、ゆっくりと川を泳ぎだしました。

これでお話は終わりです。
お話の中に、「魔法」ということばは一度も出てきません。

えさをやることを一度はやめたゴロウについて、どうのこうのというつじつま合わせ的な内容はまったくありません。

日本の川にワニの子どもがやってきて、しかもしゃべる。
棒に変身して、ドッグ・フードをえさに越冬する。

ありえないことなんですけれど、ちっとも不自然さを漂わせず、ストーリーが、川の流れのように流れていきました。

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